2008年10月2日木曜日

政治的妥協の正当化をするだけの日本法

民法における債務不履行不法行為の認定基準がいかに非論理的で妥協的なものであるかを示すために、最近に出た裁判例の一部を引用する。
4 亡Dの症状について誤った説明をした過失の有無
(1) 原告らは,前記第2の2(2)のとおり,E医師が腫瘍マーカーの検査値が正常であるから癌の心配はないとの間違った説明を繰り返し,亡Dが胃癌早期発見のための適切な措置を執る機会を奪った旨主張するので,この主張に
ついて検討する。
(2) 原告Bは,亡Dから,E医師が血液検査の結果でも数値は正常だったから癌ができているようなことはないと述べたことを聞いたことがある旨,平成17年5月23日に原告Bと亡Dが一緒にE医師の診察を受けた際にも,
E医師が,亡Dに「マーカーの値は正常値です。癌の心配はありません」。と説明していた旨供述している(甲A3・1頁,2頁。)しかしながら,上記供述は,E医師の発言を要約したもので,これらの要約がE医師の元の発言をそのまま正確に再現したものかどうか疑問がある。また,E医師の証言(証人E33頁)によれば,E医は,進行度の低い早期の胃癌では腫瘍マーカーはそれほど高い陽性率を示すわけではないこと,腫瘍マーカーの検査結果が陽性でなかったからといって癌でないとはいえないこと(上記1(2)ア(イ),ウ参照)を熟知していることが認められる。そ,E医師は,日頃,患者に対し,腫瘍マーカーというのは癌によって作られる物質であり,そういう物質を作る癌ができると血液の中に腫瘍マーカーが増加することになること,腫瘍マーカーの数値が正常であるということは,腫瘍マーカーを作るような癌はないということであることを説明をしているが,腫瘍マーカーの検値が正常であれば癌の心配はない,などという説明をしたことは絶対にない旨供述ないし証言(乙A8・5頁,証人E33,
)しているところこの供述ないし証言に格別不自然な点はないこれらの事情を考慮すれば,E医師が,亡Dに対し,腫瘍マーカーの検査値が正常であることと癌の発症の有無との関係について医学的に誤った説明を行ったとは認め難い。
(3)
証拠(甲A3)によれば,亡D及び原告Bは,腫瘍マーカーの検査結果に関するE医師の説明から,亡Dについて癌の発症はおよそないものと思いんでいたところ,突如として手術の適応がないほどに進行した胃癌である
と診断されたことに驚き,E医師の診療行為や説明の内容について強い不満を抱いたことがうかがわれる。亡Dが進行した胃癌と診断された後短期間で死亡したことにつき原告らが無念の心情を抱いたことは理解できるところであるが,他方,医師としては,患者が精神的に安定した平穏な生活を送ることができるように,患者の不安を強めたり,不必要に患者の動揺や混乱をきたす発言を控えることも重要であると考えられるから,仮に腫瘍マーカーの検査結果に関するE医師の説明にそのような考慮に基づくものが含まれており,そのことが癌の発症の心配はないと亡Dが思いこむ一因になったとしても,E医師がそのような説明をしたこと自体が亡Dに対する診療契約上の債務不履行ないし不法行為を構成すると解することはできない。
強調したところをみればわかるように、民法債務不履行とか不法行為の認定の判断基準は、ほぼ完全に裁判官による裸の利益考量に任されており、ただ最終的にそれを債務不履行だとか不法行為という抽象的・一般的・多義的な言葉で正当化しているだけであることが分かる。つまり、これは一見法的に正当で公平無私な議論のようにみせかけた裁判官大岡裁きであって、多くの裁判はたいていこのようなものなのである。

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